原因は?治療は…? 妊婦にとって喘息は注意すべき病気!
日本では近年、喘息を発症する人の数が増えていることは知られています。
そして実は、妊娠中の女性、つまり妊婦さんは普通の人よりも喘息に罹りやすく、また発作が起きないよう、十分注意しなければならないのです。
妊娠中の喘息について、しっかり知識をつけ、もしもの時に備えましょう。
このページの目次
年々増加する喘息患者 妊婦が喘息になるとどうなるの?
喘息の発作の苦しさは、経験したことのある人にしか分からない、とても辛い症状です。
経験から、発作の起きる前兆――体調や、周囲の環境、季節、温度・湿度から起きることが分かる時もありますが、毎回そうした兆候に気付けるわけでもありませんし、また色々な要素が組み合わさり、急に起きてしまうこともあるため、とてもやっかいです。
喘息は、特別な人に起きる病気ではありません。
日本では特に近年、発症する人が増えている傾向があり、50年前と比べて、子供(小児喘息)では6倍、大人の喘息でも3倍と、年々増加の一途をたどっています。
ですから「自分は関係ないな」と思っていても、急に発症してしまう可能性が高いのです。
喘息の恐ろしいところは、根治、つまり元から治療し、二度と発作が起きない体になることが、現在の医療技術では不可能な病気であるという点です。
発作が○年起きなかったから治った、とは言えず、体力が落ちてしまった時や、治療をさぼった時に発作が起きてしまうことが非常に多く、やっかいな病気なのです。
問題は、妊娠中の女性――妊婦が喘息にかかったり、発作が起きてしまった時です。
こんな時は、どんな治療を受けるべきなのでしょうか?
そして、喘息の発作が起きないようにするには、どんなことに気をつけるべきなのでしょうか?
そもそも喘息とはどんな病気か
そもそも喘息とは、どんな病気なのでしょうか?
喘息は、端的に言えば”何らかの原因により気管の粘膜が炎症を起こして腫れ、呼吸困難を引き起こす病気”です。
正式名称を”気管支喘息”といい、「ヒューヒュー」、「ゼーゼー」といった”適正喘鳴(てきせいぜいめい)”と呼ばれる独特の呼吸音がし、肺に必要な量の空気が入らなくなる、非常に苦しい発作が特徴です。
古くは古代ギリシャ時代から発症が確認されている病気ですが、現在では、この炎症が起きるのは、多くの場合アレルギーが原因であることが分かっています。
そのため、日本アレルギー学会は喘息の定義を”慢性的な気道の炎症性疾患”として定めています。
アレルゲン(アレルギーの原因となる物質)に対して、体内の免疫細胞が過度な防衛反応を起こし、気管支内の粘膜が腫れ上がってしまうため、呼吸がしづらくなり、激しい咳や適性喘鳴、呼吸困難が起きるのです。
勿論、呼吸困難が起きているわけですから、この状態を放置してしまうと、最悪死に至ることがある、恐ろしい病気です。
アレルギーの原因となる物質が多数あることが知られているように、どんなものに反応してしまうのかは、患者さんにより異なります。
中でも特に多いのが、甲殻類(エビ・カニなど)や卵といった食物、獣毛(ペットの犬、猫、うさぎなど)、ハウスダストなどです。
喘息って何故発症するの?発症したら完治する病気なの?
上記のように、喘息の発作が起きる第一要因はアレルギーですが、その他にも、煙草、薬、排気ガスなどの汚れた空気、ストレス、風邪などの病気、天気や気候なども挙げられます。
また、これらが複雑に組み合わさって喘息を発症する例も少なくありません。
例えば、春先に花粉が飛び始めた頃、風邪を引いたりストレスが溜まっていたり――というような時は、喘息の発作が起きる可能性が高くなってしまいます。
実際、喘息の発作は季節の変わり目に起きることが多く、また日中よりも夜から明け方の時間帯に起きやすい傾向があります。
これは、温度の変化や、睡眠による体内温度の低下と気管支の収縮、気管支からの分泌液が溜まりやすいことなどが原因だと考えられています。
こんな辛い喘息ですが、最初に触れた通り、”完治”はありません。
長い時間、発作が起きないようにすること、言うなれば”喘息コントロール”をし、普通の生活が遅れるようになることが”ゴール”だとされています。
つまり、発症してしまったら、発作が起きないようにするしかないのです。
(ただし小児喘息は、中学生になる頃には完治する例が数多くあります。筆者も実際この例で、大本のハウスダストアレルギーは現在もありますが、喘息の発作は中学生以降起きたことはありません。)
妊婦の喘息の発作は軽視しては駄目!
喘息持ちの女性が妊娠した時、あるいは妊娠中に喘息が発症してしまった場合は、どんな問題があり得るのでしょう。
喘息の発作は、言ってしまえば”体が酸欠になる”ことを意味します。
そして妊婦さんが一番注意しなければならないのは、”酸欠になるのは自分だけでなく、胎児も同様だ”という点です。
ご存知の通り、お腹の中の赤ちゃんは、胎盤を通じてお母さんの血液から、必要な栄養素と酸素を受け取り、代わりに老廃物と二酸化炭素の受け渡しを行っています。
ですが、妊婦さん自身が酸欠になってしまうと、当然血液中の酸素が少なくなるわけですから、胎児も酸素不足になり、”胎児低酸素血症”(胎児ジストレス)という状態に陥ります。
この胎児低酸素血症とは、以前は”胎児仮死”と呼ばれた状態で、胎児の呼吸機能や循環機能に障害が起き、状態が悪いようであれば、急速な分娩(多くの場合は帝王切開)が必要になってしまいます。
胎児低酸素血症の症状が重篤だと、多臓器不全や脳性麻痺、精神発達遅滞などの脳障害を始めとした様々な合併症を伴ったり、最悪の場合も考えなければならなくなります。
例え酸欠にならなくても、激しく咳き込むことにより、腹部に大きな力がかかってしまいますから、胎児にとっていい影響はありません。
ですから、妊婦さんにとって、喘息の発作は絶対起こさないようにしなければならないもののうちの一つだと言えます。
妊婦さんは喘息になりやすい これって本当?
妊娠前から喘息の既往歴があるかどうかに関わらず、妊婦さんのうち1割は、妊娠中に喘息を発症する、という調査結果もあります。
妊娠中は赤ちゃんを異物と認識しないよう、女性の体の免疫力は低下する傾向がありますから、通常の状態よりも喘息になりやすいのだ、という説もあります。
つまり、妊娠中は特に、喘息にならないようにする・喘息持ちの人は発作が起きないようにすることが重要になってきます。
(ただ、妊娠前と妊娠中、その発作の度合いに違いが現れるかについては、軽かった、重かった、変わらなかった、とそれぞれの割合に大きな差はありません。これは全くの個人差と言っていいでしょう。)
1.風邪などの軽度な病気に対しても、早め早めに対処する
少し咳が続くな、と感じたならば、産婦人科かかかりつけの内科で妊娠中であることを告げた上で、妊娠に影響のない薬の処方をお願いするなどをしましょう。
加えて、風邪の流行る時期にはマスクをする、体を冷やさない、不必要に人混みに行かないといった予防策も重要です
2.部屋や寝具を清潔に保つ
部屋に舞っている埃や、布団などに付着しているハウスダストは、咳の原因になります。
こまめな掃除や換気を行いましょう
3.水分補給はこまめに行う
妊娠中は通常よりも体の中も外も水分不足になりがちです。
意識して水分補給し、喉の粘膜を乾燥させないようにしましょう。
もし妊娠中に喘息の発作が起きた時はどうすべきか
もし、妊娠前から喘息の既往歴があった場合は、まずその旨を産婦人科の医師に伝えるのと同時に、かかりつけ医に妊娠したことを相談し、今後の治療について方針を決めなければなりません。
「妊娠中はどんな薬も飲んではいけない」という考え方が(何故か)世間に根付いてしまっていますが、決して”全ての薬が全妊娠期間中に飲んではいけないものではない”ということを知っておきましょう。
勿論、妊娠中は飲んではいけない禁忌薬や、飲むことに慎重にならなければならない薬は存在します。
ですが、こと喘息の治療に用いられる薬は、吸入薬を含め、胎児に影響がないとされる薬が多く存在します。
そして、医師の判断と指導のもと、喘息を起こさないために服薬すれば、更にかかるリスクを低減させることが可能です。
そうした相談もせず、「薬は子供に悪いって言うから」という風評だけを信じ、自己判断で薬をやめることのほうが、遥かに危険性が高い行為です。
決して、自己判断で薬を辞める、ということだけはしてはいけません。
不安に思うならば、専門家である医師に尋ねましょう。
また、既往歴はないけれど、長く咳が続く、呼吸をするとゼーゼーと音がするなどの症状が出始めたら、妊娠を機に喘息を発症した可能性を考え、早いうちに同じく産婦人科への相談を行いましょう。
親が喘息だと、子供にも喘息は遺伝するの?
もし、妊婦が喘息だった場合、生まれてくる子供も喘息になりやすい体質なのでしょうか?
この答えは「喘息そのものは遺伝しないけれど、”アレルギーを起こしやすい体質”は遺伝する」のです。
例えば、花粉アレルギーの両親から生まれた子供が、花粉は大丈夫なのにハウスダストに対してアレルギーを発症する、というように、何に対して反応するかは分からないけれど、普通の人に比べてアレルギーになりやすいのです。
ただ、両親が全くアレルギーを持っていなくても、その子供が何らかの物質に対してアレルギーを発症する可能性があります。
アレルギーは現代病だと言われる所以がここにあるのです。
単に、アレルギーという病名が一般的になっただけで、”昔は気付かなかっただけ”という例も勿論あるのですが、「日本人の生活が、昔と比べて大きく変化してしまったこと」が第一要因、第二要因として「住環境(自然的なもの・人工的なものの両方)の変化」、次いで「抗生物質などの医薬品の影響」、「過剰なアレルゲンの排除」、「ストレス社会」なども、アレルギー発症率、引いては喘息の患者数の増大の原因として考えられています。
喘息もアレルギーも、発症しないことが一番です。
それでも、発症する可能性は誰でも持っているのですから、発症してしまった時には、正しい方法で発作を起きないようコントロールすることが重要です。
それは妊婦さんにとっても同じだということは、忘れないようにしてください。