葉酸の摂取で発症リスクが下がる!”神経管閉鎖障害とは”
誰しも、健康な子供を授かりたいと思うものです。ですから、子供に起こり得る先天性疾患が発症するリスクを下げる効果が確かなことは試すべきでしょう。
特に、”神経管閉鎖障害”に関しては、葉酸の摂取でその発症リスクが下がることが分かっています。
このページの目次
そもそも神経管閉鎖障害とはどんな病気?
妊娠初期の女性には、特に必要とされる栄養素があります。それは”葉酸”という、ビタミンの一種です。
このビタミンの効果は多数あり、枚挙に暇がないほどです。
しかし、何故”妊娠初期の女性”に特に必要だと言われるには、ある”先天性疾患”が大きく関わっています。
それが”神経管閉鎖障害”です。
ご存知の通り、人間は脊椎動物であり、首(頚椎)からお尻(尾骨)までの、26個の”脊椎”と呼ばれる骨と、その間に挟まれた椎間板から成る、背骨によって支えられています。
重たい頭を支え、直立し、自由に歩けるのは、この脊椎、ひいては背骨があるからです。
しかし、背骨はただ人の体を支えるために存在するわけではありません。
重要なのは、この背骨の中を”神経管”と呼ばれる神経の束が通っていることです。
神経の一番の根本は、人の脳の中心、”脳幹”と呼ばれる部分に繋がっています。
脳幹は、”中枢神経系”を構成するものであり、その名の通り、体の様々な神経の大本です。
脳幹があるから、人はあらゆる神経伝達――指の動き、痛みを感じる痛覚、呼吸、鼓動に至るまで――が行えるのです。
いわば、脳幹は人にとって生命活動を可能にしているコントロールセンターです。
この脳幹から出た神経は、例えるなら木の幹と枝のような形状をしており、幹に当たるのが、背骨を通る神経管です。
神経管は単なる一本の筋ではなく、何本もの神経がまとまったもの。それが、脊椎の隙間から、要所要所で枝を伸ばすように分岐し、体の隅々にまで神経を張り巡らせています。
例えば、腕を動かす神経は、首のあたりの脊椎(頚椎)から枝分かれし、肩、腕、そして指先へと繋がっています。対して足を動かす神経は、腰の付近の脊椎から伸びています。
さて、問題の”神経管閉鎖障害”ですが、これは、一言で表すならば”本来ならば脳幹から尾骨まで繋がっているはずの神経管が、途中で途切れてしまう(閉鎖される)障害”です。
この障害は、赤ちゃんの”先天性疾患”――つまり、出生時から存在する病気の一つに数えられています。
何故この障害が起きるかについては、妊娠の超初期である、特に妊娠4週目から5週目に、赤ちゃんがうまく成長できないことが原因であることがわかっています。
妊娠4週目というと、受精卵がちょうどお母さんの子宮に着床をし、子宮内に”胎嚢”(袋状の、赤ちゃんが育つ空間)を作り出す頃。呼び名も受精卵から”胎芽”に変わる時期でもあります。
この時期から、それまではまだ1cmほどの細胞の集まりだった胎芽が、爆発的とも言えるスピードで成長を始めます。
心臓を始めとした内蔵の形成、脳の形成、そして脊椎やその他の骨、神経といったものが形成され、姿自体も人間の基本的なかたちを取り始めるようになるのです。
この爆発的な成長の際には、多くのエネルギーと栄養素を必要とします。しかし、これらが欠けてしまうと、胎芽の成長に大きな影を落とすことになります。
実際、重大な先天性異常はこの時期に生じやすく、神経管閉鎖障害も例外ではありません。
神経管閉鎖障害児はどんな子供になる?
神経管閉鎖障害は、その発生する場所で、2つの疾患に分類されます。
神経管の上部――つまり脳幹部分での閉鎖が起きた場合には、脳が形成不全を起こし、いわゆる”無脳症”になります。
無脳症の場合、生命活動を担う脳幹の形成不全(つまり脳が正常につくられない)が起きるため、流産や死産の割合が高く、また運良く出産できたとしても、残念ながら長く生きることはできません。
そのため、エコー検査などで無脳症が診断された時には、母体のリスク軽減のため、早期に堕胎をすることを勧められることになります。
対して、神経管の下部――背骨に当たる部分で閉鎖が起きた場合には”二分脊髄症”になり、発症箇所の脊椎の一部が欠損し、それにより何らかの神経障害を発症します。
特に腰の付近での発症が大半ですが、まれに首のあたりや背中の上側での発症も確認されています。
※神経組織自体には異常を伴わない二分脊椎症の場合は、一般的に二分脊椎症に分類されません
二分脊椎症は以下の2種に分類されます。
顕在性二分脊椎症(開放性二分脊椎症)
出生時、発症箇所の背中の皮膚が形成されず、脊椎および神経がむき出しになっている状態(出生後、すぐに外科手術による閉鎖手術が必要)
また、合併症として水頭症(脳を守る”髄液”の循環が滞り、頭蓋骨内に溜まってしまい、頭部が大きくなる疾患)を7割以上の確率で発症する
他にも様々な障害や合併症を起こすことがある
潜在性二分脊椎症(脊髄脂肪腫)
発症箇所の皮膚自体は存在するが、瘤状の盛り上がりがある、やけど痕のような傷、おしりの割れ目の歪みなどの皮膚症状が見られる
瘤状の脂肪腫の状態によっては、癒着や症状が発症する前に手術による除去などを行うのが一般的(症状が出てから手術を行っても、症状の改善が難しいため)
先に説明した通り、脊椎を通る神経管は、その部位によって、繋がっている器官が異なります。
そのため、どの部分に閉鎖が発生したのか、そして神経がどの程度の損傷を受けているかにより、予後に個人差が大きく存在します。
特に顕在性二分脊椎症の場合は、下肢(足部)の麻痺、変形による歩行障害や麻痺、尿や便の排泄障害、そして学習障害などが起きることがあります。
対して潜在性の場合は、小学校に上がる頃から思春期にかけ、”脊髄係留症候群”を発症するリスクが高まります。
この疾患は、身長が伸びることで、二分脊椎症の発症箇所から下の器官の神経伝達に支障が出るものであり、転びやすくなったり、時に失禁などの症状が現れることがあります。
神経管閉鎖障害児を支える家族の苦労は、並大抵ではありません
神経管閉鎖障害児を持つ家族には、やはり健常児よりも苦労が伴うことは否定できません。
神経の損傷によっては、下半身の麻痺が出る場合もありますから、常日頃から介助が必要な場合もあります。
麻痺までには及ばなくても、障害の状態ごとに、歩行訓練などのリハビリ、歩行補助具の調達、学習障害への対処など、ありとあらゆる面でのフォローは不可欠です。
また、様々な医療機関との連携も必要ですし、何より子供本人の心のケアも重要な点です。
何よりこれは一過性のもので済むケースよりも、成長に合わせて手術を重ねたり、補助具の新調、進学先の選択など、考えること・やらなければならないことは増えていきます。
こうした苦労を分かち合えるのは家族ではありますが、残念なことに、全てがキレイ事では済まないことが多いことは忘れてはいけません。
もし他に子供がいた場合、将来的に、その兄弟が結婚を考えた時(嫌な話ではありますが)無理解な相手側の家族に反対される、というケースだって、未だに存在するのです。
そして子供本人も、幼い頃から多くの場面で辛い経験をしなければならないのです。
「この子の持って生まれた運命だから」と、本人を含めた家族全員が達観できるケースは、本当に残念ですが稀なのです。
葉酸サプリメントの摂取で、神経管閉鎖障害の発症リスクが下がる!
神経管閉鎖障害が発生する率は、1万人に6人程度であると言われています。
そして、この障害が起きる原因としては、遺伝性、妊娠初期の女性の状況(抗てんかん剤の服用、飲酒・喫煙、ビタミンAの過剰摂取、肥満、糖尿病)などの他にもう一つ、重大な要因があります。
それが”葉酸の欠乏”です。
葉酸は、ビタミンの一種であり、色の濃い野菜(ほうれん草やブロッコリー等)に含まれている”水溶性ビタミン”です。
この葉酸は人体にとってとても大切な栄養素の一つですが、特に妊娠初期に必要だと言われるには、その効能の一つに”細胞の正常な分裂・増殖を助ける効果を持つ”ためです。
神経管閉鎖障害は、脊椎の形成において異常が起きることで発生する障害だと触れましたが、葉酸を摂取することで、この異常が起きづらくなるという、確かなデータが存在します。
実際、葉酸を妊娠前から葉酸を摂取することにより、神経管閉鎖障害の発症リスクが最大75%下がる、という海外の研究結果を受け、日本でも厚生労働省から”妊娠を考える女性は葉酸サプリメントを摂るようにすべき”という勧告が出されました。
妊娠前――つまりは、その子供の元となる卵子が排卵される前から葉酸を積極的に摂り続ければ、細胞分裂の際に起きうる様々な”遺伝子のコピーミス”が起きづらい、健康な卵子を排卵できるようになるのです。
そして、卵子が受精し、着床し、胎芽となった時にも、子宮内膜を通して母親から葉酸を摂取することで、大幅に神経管閉鎖障害の発症リスクが下げられるのです。
厚生労働省の推奨する1日の葉酸の摂取量は、0.4ミリグラムです。
ただ、これを普段の食事で摂ろうとすると、葉酸の持つ性質(水に溶けやすく熱も弱い)も関係して、実に大量の野菜を食べる必要が出てきてしまいます。
ですから「そろそろ子供が欲しいな」と妊活を考えているのであれば、是非、効率的に葉酸が摂取できる葉酸サプリメントを選び、神経管閉鎖障害などの先天性疾患の発症リスクを下げることを心がけましょう。
- 妊娠と葉酸の効果